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よくある質問 どうしてカフー?

新規作成日:2020年03月01日

更新日:2020年03月01日

よくある質問 どうしてカフー?

角川映画の幻魔大戦を見た人がだいたい心の中でつぶやくのが、「なぜラスボスが永井荷風なの?」でしょう。

ネットで検索すると、ヒットするWebページが レファレンス協同データベース 登録番号:1000035413のレファレンス事例詳細。 レファレンス協同データベース(レファ協)は、国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築する調べ物のための検索サービスです。参加館の質問・回答サービスの事例、調べ方、コレクション情報など調査に役立つ情報を公開しています。

質問:1980年代のアニメ映画「幻魔大戦」に永井荷風に似たキャラクターが出ていると聞いた。事実かどうか。また何故似せたのか知りたい。

回答:1983年に劇場公開された角川アニメーション映画「幻魔大戦」は、原作:平井和正/石ノ森章太郎、監督:りんたろう、キャラクターデザイン:大友克洋による。映画は原作と大きく異なる。
『キャラクターオブ幻魔大戦』(角川書店1983) 国会図書館より取り寄せ確認。70ページに地球攻撃最高司令官「カフー」として絵コンテがあるが、特に明記なし。
正体が火を吐く龍であるため「火風」「カフー」を「荷風」とかけあわせたのかと推測。
『別冊アニメディア幻魔大戦』(学研1983) 115や86ページ。キャラクター比較分析で「永井荷風」をモデルにしていると書かれている。但しその理由は明記なし。

2003年6月11日に市川市中央図書館に依頼された質問のようですね。 これを調べて回答された方は、『キャラクターオブ幻魔大戦』(角川書店1983)、『別冊アニメディア幻魔大戦』(学研1983)を参考にされたようです。

ゴーマンかましてよかですか?間違いです。"正体が火を吐く龍であるため「火風」「カフー」を「荷風」とかけあわせたのかと推測。" 推測ですか・・・適当ですね・・・。調べた人に悪いので、批判はこれくらいにしておきます。

まず、この答えを回答する前に、「なぜシナリオ決定稿第1稿で少年マガジン版のシグだったラスボスがカフーになったのか?」という問題を説明する必要があります。 それに関しては私が昨年のコラムなどで頑張って記述した通りです。

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手短にまとめると、角川映画幻魔大戦のシナリオの第1稿を1981年から1982年上半期に執筆した際に、最初の脚本家陣が少年マガジン版幻魔大戦の漫画のほうをベースにして映画のシナリオを書いていました。 制作する前に角川春樹も少年マガジン版の原作者に名を連ねている「いずみ・あすか」(石森章太郎の変名)が何者かを調べ忘れていました。
しかし、それを読んだスタッフが「角川映画の幻魔大戦は角川文庫版の小説が原作と言いながら実質少年マガジン版の漫画が原作じゃないか」と思い、 その感想が噂話として漏れて石森章太郎サイドの耳に入りました。そこで石森章太郎のマネージャー某Kが角川春樹と平井和正に抗議し、角川映画幻魔大戦の原作者と製作者に石森章太郎がクレジットされることになりました。
私の取材の限りでは、石森章太郎サイドは「シグを出すな」とか「ナオミちゃんを出すな」とか「フロイの101匹の息子を出すな」とか「月が落ちてくるラストをやめろ」と要求し無かったのですが、 りん・たろう監督としては石森章太郎サイドに抗議されたことが気に入らなかったらしく、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いということで、小説に出てこないが漫画に出てくるキャラを映画オリジナルキャラに差し替えました。
そういう理由でシグをオリジナルキャラに変えた訳です。

一言で言えないような話なわけですが、一言にまとめると、大人の事情とりん・たろうの感情論があいまって、シグがオリジナルキャラクターに変わることになりました。

では、なぜシグがカフーになったのか?りん・たろうはこう回答しました。
大友克洋と永井荷風の写真を見て永井荷風みたいなラスボスが面白いと思ったから。
パッと聞いてわかりにくい回答だと思います。りん・たろうはカフーのキャラデザのモデルを永井荷風にした理由については回答しましたが、 「シグをやめた」理由と「シグをやめて、なぜその代わりを決めるときに永井荷風の写真を読んだのか」という理由については言及しませんでした。

「シグをやめた」理由については、上記で述べたとおりです。では、なぜ、シグの代わりを探していて永井荷風の写真を見るのでしょうか。

その真相に迫るヒントとして考えられるのが、他の幻魔の名前です。「ザメディ」と「ザンビ」。これは少年マガジン版の時は、「サメディ」と「ゾンビー」でした。 前者はブードゥー教の精霊の名前。後者も同様にブードゥー教の死体奴隷。りん・たろうは少年マガジン版の前半に登場する幻魔の名前がブードゥー教にちなんでいたことに倣って、ブードゥー教の用語を当たったと推測されます。

ブードゥー教にはカーフとかカーフォゥと呼ばれる精霊の名があります。 おそらく、シグの代わりのラスボスの名前に、この「Kalfu」すなわち「カフー」が挙がり、 「カフー」と言えば「永井荷風」じゃないか?ということで、りん・たろうは永井荷風の資料を取り寄せ、 大友克洋と永井荷風の写真を見て「永井荷風みたいなラスボスが面白い」と思ったから、 角川映画幻魔大戦のラスボスの名前は「カフー」になり、そのキャラデザが「永井荷風」をモデルにしたものになったのだと思います。




以上です。