2018年7月21日に掲題のイベント行ってきました。その振り返りです。
トークショーが終わった後にサイン会がありました。私は『幻魔大戦 Rebirth』第1巻にりんたろうさんと丸山正雄さんのサインを頂きました。しかし、このようなお言葉でした。
私:サインをして欲しい白紙のページを開いて「こちらにサインをしていただけますでしょうか。」
りんたろうさん:「おいおい、監督に指示を出すのかよ。」。私は「(∀`*ゞ)エヘヘ」と苦笑い。りんたろうさんは(まあ、サインしてやるよ)という感じでサイン。丸山正雄さんは黙々とサイン。
このやり取りの中に、りんたろうさん達の角川映画幻魔大戦という作品の姿勢のすべてが現れていたように感じました。角川映画幻魔大戦とは、平井和正の角川文庫版幻魔大戦をアニメ映画化を目的にしていたわけではなく、勿論、少年マガジン版幻魔大戦のアニメ映画化を目的としていたわけではありません。もし、そうならば、「お、幻魔大戦の続きなんかあるの?」とか「実は、密かに幻魔大戦 Rebirth読んでるんだよ。」とかちょっと声をかけるはずです。彼らはマンガ/小説の「幻魔大戦」という作品そのものに対しては全くの無関心。
つまり、角川映画幻魔大戦とは、「角川春樹」という時代の寵児を"パトロン"として得たりんたろうが大友克洋の絵を使って制作した"1980年代初期当時としては革命的で今までとは180度違うアダルトチックな実験的な劇場用アニメ映画"に過ぎなかったということです。
いやーさがしましたよというインターネットラジオで、角川映画版幻魔大戦に馴染んだものにとって、小説の幻魔大戦も秋田書店の漫画の幻魔大戦も紛い物という旨の発言があっりましたが、案外、1980年前半の幻魔大戦ブームとは所詮、そういうことだったのかもしれません。
ここからは私の憶測ですが、石森章太郎サイドは次のことを角川春樹サイドに要求したのではないでしょうか。
銀座に向かうベンツの中で、角川春樹はりんたろうに問いました。「もし話が決裂して、石森章太郎の絵でやらなくてはいけない事になったらどうする?」。
りんたろうさんは答えました。「それだったら、僕はやりません。石森章太郎はよくしっているけれど、この作品に関してはそれはないでしょう。角川書店が初めてアニメをやるなら、大友克洋だ。そう思って始めたんですから。」
銀座での交渉は決裂せずに、話がまとまりました。石森章太郎は映画製作に全く関与していないにも関わらず、原作だけでなく、製作という不思議なポストにクレジットされることになりました。そして、りんたろうさんは角川春樹から興行収入・配給収入の何%かの配分を受けることを契約書で交わすことまでしていましたが、最終的には「プロデューサーが、ちゃんと交渉しなかったみたいで、」そのお金は入ってきませんでした。
りんたろうさんは、角川映画版幻魔大戦のキーワードとして"東映動画にできない事"を強調していましたが、「角川映画幻魔大戦の実質的な原作が秋田書店サンデーコミックの漫画の方の少年マガジン版幻魔大戦」と言われるのを避けるために、シグをカフーに変更したり、フロイの101匹の息子を登場させなかったとしたら、何とも皮肉なことだと思います。なぜなら、シグやフロイの108匹の息子(石森章太郎が趣味で101匹に変更してしまった)とは、平井和正が考えたキャラやストーリーだからです。むしろ、映画冒頭のベガがジェット機に衝突し、ルナがフロイとテレパシーでコンタクトし380万光年向こうの宇宙空間で繰り広げられる幻魔との宇宙戦争を垣間見るというシーンのシーケンスこそが、石森章太郎独自のプロットだったのです。まあ、石森章太郎は大友克洋の絵で、秋田書店版幻魔大戦のストーリーをなぞる事には納得していたから、シグやフロイの101匹の息子やナオミちゃんを出しても何も問題なかったのですが。
話がガラッと変わりますが、「富野由悠季が幻魔大戦監督から降板させられた説」というのがありますが、このトークショーを聞いた限り、ガセネタだと思います。
鈴木敏夫 あれ、監督交代があったんですよね。もう時効だと思うから言っちゃうけど、『幻魔』はほんとうは富野さんがつくる予定で、あることがきっかけでおろされちゃう。それでりんさんに替わるんですね。
なぜそう思うのかというと、前編の(1)をご覧ください。りんたろうさんが、角川春樹に角川アニメを託したいと言われたとき、まだ幻魔大戦を題材にするとは決まっていませんでした。どうやって、"題材が決まっていない角川アニメ映画"から富野由悠季を降ろすことが出来るのでしょうか。「富野由悠季が幻魔大戦監督から降板させられた説」は時系列的に矛盾していて物理的に無理があります。
鈴木敏夫は他にもガセネタを発言していました。宮崎駿も平井和正も、尾形英夫が連載を執筆させた
鈴木氏: ついでだから言っちゃいますけど、『幻魔大戦』を書いた平井和正【※】という有名な小説家がいるんですけど。じつはこの人に小説を書かせたのも尾形英夫で。それまで平井和正という人は、TV番組の放送作家だったんですよ。そういう人に知り合うと、尾形さんはパッと言うんですよね。「書きな」って。
平井和正は学生時代から小説家志望です。私が突っ込むまでもないので、あまり詳しくは書きません。鈴木敏夫の業界うわさ話や蘊蓄には気を付けないといけないようです。
閑話休題。あと、りんたろうさんの幻魔大戦論にも私は疑問を感じました。どうして「東丈と東三千子の関係を描く事」があの遊園地のシーンになるのでしょうか。お時の影をどこかでチラつかせるべきなのではないでしょうか。東三千子とは平井和正の終生のテーマ「母親」の解の一つである"女神"であるはずです。『プラスマッドハウス りんたろう』のP84でりんたろうさんはこう述べています。
あれ、もっと突っ込むと近親相姦的になるじゃん。
りんたろうさんは、本当にちゃんと平井和正の幻魔大戦を読んだのでしょうか??? 単に、「角川映画幻魔大戦の実質的な原作が秋田書店サンデーコミックの漫画の方の少年マガジン版幻魔大戦」と言われるのが嫌で、付け焼刃に緑背の角川文庫版幻魔大戦をザザッと読み流しただけではないのでしょうか。
さいごに私がネットをザッピングしていて、「確かにそうだな」、「なるほど」と思ったWebページを上げておきます。
Utaro Notes 映画『幻魔大戦』―愛と新宿とポカリのパースペクティヴ
ポンコツ映画愛護協会『幻魔大戦』 『幻魔大戦』:1983、日本
80’S「幻魔大戦」(1983 東宝) - はりきっていこう(^o^)/