2018年7月21日に掲題のイベント行ってきました。基本的に、2009年12月上旬にキネマ旬報社から発行された『プラスマッドハウス りんたろう』と内容は同じでしたが、思い出して書き記しておきたいと思います。
(1)角川春樹から銀河鉄道999劇場版の頃にりんたろうに誘いがあった。角川春樹のクラブがあって、そこでりんたろうに角川アニメ映画を託したいという話をされた。その時点で、角川春樹がアニメーション映画としてやりたいものはなかった。当時、某電鉄グループの御曹司T氏を角川春樹が預かっていた。彼が幻魔大戦のファンで、幻魔大戦がやりたいと企画を上げてきたので、題材が幻魔大戦に決まった。
(2)プロジェクトチーム・アルゴスを作った理由は、単純にいうとマッドハウスだけでやる自信がなかったから。当時としては銀行に預ければ利子だけで食っていける金額だったので持って逃げようということも頭によぎった。
(3)丸山正雄は数字に弱いので、プロデューサーとは名乗らず、設定という立ち位置にした。スタッフ一人一人のパーソナルを読み取れるが人使いが荒い。それが丸山正雄の魅力。最近気に入っている肩書はクリエイティブプロデューサー。
(4)初めての試みだった。出版社がアニメ映画に手を出すという走り。それに続いて徳間が参入して来た(角川映画版幻魔大戦の商業的成功があったから今の宮崎駿がある?)
(5)幻魔大戦のアニメ映画化の企画の際に、大友克洋を使ってアダルトチックなアニメにしよということになった。幻魔大戦のマンガを描いているのが石森章太郎だという事を認識はしていたが、石森章太郎の要素を入れると東映の子供のアニメになるのが当時は普通だったので、その要素は入れないことにしていた。今までとは180度違う作品にしようとしていた。
(6)丸山正雄は、大友克洋に「こんなにブスでどうするの?」とダメ出ししていたが、3ヶ月ぐらいでブスで良いと諦めた。
(7)当時、りんたろうは石森章太郎を「しょうちゃん」と愛称で呼べるくらいに仲が良く、野球をやったりしていた。
(8)角川映画幻魔大戦はサイキックブームのはしり。ショートピースの時代。AKIRAを書くのはこの後。角川春樹が超常現象好きになる。
(9)石森章太郎が出て来て、映像化が頓挫するくらいのことがあった。それを角川春樹が決着をつけた。 当時、絵コンテに入る入らないの時期(1982年1月~4月)に、角川春樹からりんたろうに「幻魔大戦の映画化は頓挫するかもしれない」と聞かされた。銀座での石森章太郎と石森章太郎のマネージャーとの話し合いに連れていかれた。銀座に向かう車の中で、「決裂するかもしれない。その時には白紙に戻すが、1983年3月の東宝東和を押さえてしまっているから、その時は実写の監督をやれ」 渡された原作本は、阿久悠の『殺人狂時代ユリエ』だった。結局、角川春樹がことなく全部収めた。
(10)漫画映画が劇画になっていくターニングポイントとなる作品。今見るともう少しうまくかける気はするけど当時はそれで精一杯だった。
(11)原作小説は完結していなかったが、映画なので続きとやるわけにはいかないから完結させた。ただ、それを平井和正が怒ったとあとで聞いたが、原作者と衝突するのは仕方がないこと。
(12)作業は大変だった。絵が自分の頭で想像できなかった。サイオニクサーの表現をどうすれば良いかわからない。大友と話し合いながらやった。リアルではなくリアリティを感じさせたかった。新宿の最上階のホテルをとって夜景をスケッチした。ビルの赤いものがチカチカ光るんだとアニメを見て初めて認識する人がいたくらい。
(13)新宿でスケッチしていた(今なら職質受ける)横でいて鼓童があうと思った。鼓童のBGMに載せて女占星術師が妖しい踊りを舞う絵がパッと思いついた。女占い師は、大友が"新宿の乞食のおばさん"風の占い師にしたいと言い出した。鼓童に合わないからNGにした。女占い師は白石加代子がよいと思った。漫画映画でそういうことをするということはなかった。舞台の役者さんを連れてくるという試みだった。ちょっと意外な役者を使う。キャスティングはりんたろう。原田知世はセーラー服でアテレコに駆けつけてた。『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』で黒騎士ファウストを演じた江守徹にベガを依頼したら、「またへんな役か」と言われた。声優の布陣はりんたろうの閃きだった。上手くいったと思っている。
(14)りんたろうは天井桟敷に入ろうと思ったことがあったが、裸に自信がないためやめた。プリンセス・ルナが東丈の意識にサイコダイブする際に東三千子が丈をかばうシーンは寺山修司の影響。
(15)どうせはみ出しものがやるんだからとんがった物をやろうと思っていた。角川春樹には21世紀FOXの人がいた。角川春樹からキース・エマーソンを使いたいと言い出した。キース・エマーソンは二週間毎日シンセサイザーと格闘してりんたろうとやりあってた。全部エマーソンでやりたかったが、予算が限られるので戦闘のシーンだけにした。それ以外は青木望でやった。ローズマリーバトラーは角川春樹が使いたいといった。
(16)大友の感想は忙しかったという感想しかなかった。原画もやらされていた。新宿駅の人だかりは大友独りでやった。当時のメンバーと知り合って迷宮物語やAKIRAに繋がっていく。
(17)反省をよく聞かれるが、細かいことは考えないようにしている。大友の絵で相当な人数に絵を描かせるという時点で自分の中では印象に残り続けている。
(18)大友版ベガのデザインの印象は素晴らしいと思う。ベガの一部が壊れているというの最初のデザインがあった。ロボットはおもちゃ屋さんのためのロボットになってしまっている。鉄人28号のフォルムでEVAができないかという試みを今している。浦沢直樹が大友のベガがいかに衝撃的だったかと絶賛していた。
(19)ニューヨークのロケハンは行っていない。金銭面で美味しい思いをしたとは思わなかった。1,150円の黒字だった。今見ると頑張っているくらいに見えるが、当時としては非常に大変で、斬新な映像だった。東映では幻魔大戦という実験的なことはできなかった。長編をやるとテレビの仕事を蹴らないといけない。テレビを蹴ると生意気だと干されることもある。そういう覚悟でやっていたし、スタッフには高給を支払っていた。
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