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サイボーグ戦士ベガについて

新規作成日:2019年08月15日

更新日:2019年09月16日

Ionicをやってみようとしている若者に当サイトとそのソースコードのGitリポジトリを参考として教えた所、「githubの禍々しいプロフィール画像はなんでしょうか。」という質問が来た。まあ、私の歳よりちょっと上の世代ではないと幻魔大戦(角川映画版ね)をしらないわけだが、あの像をパッと見てサイボーグ戦士ベガだと気取 (けど)ってもらえないのは少し辛いものを感じた。というわけで、サイボーグ戦士ベガとはなにかを御題にコラムを書こうと思う。

サイボーグ戦士ベガは、幻魔大戦におけるマスコットキャラであり、主役の超能力者 (エスパー)戦士チームを指導する管理職的な役割のキャラクターである(年頃としては宇宙戦争を戦い抜いている二千歳の青年という設定)。南総里見八犬伝の(ちゅ)大法師(金碗孝徳)やスーパー戦隊の導きキャラ(ゴレンジャーのカレーハウスのマスターなど)に相当するキャラである。

少年マガジン版幻魔大戦のベガ

復刊ドットコムの幻魔大戦《オリジナル完全版》の第2巻を読むと、初期構想では数千万年前の前文明の巨人族が建造した超能力ロボット<魔人>という案だったが、内田勝・石森章太郎・平井和正の三者で話を練っている間に宇宙戦争で敗れたサイボーグ兵士ベガという設定に変遷したようである。

復刊ドットコムの幻魔大戦《オリジナル完全版》の第1巻には、幻魔大戦の原案である魔法大戦の漫画原作が平井和正の直筆で掲載されている。2018年7月29日に宮城県石巻市の石ノ森萬画館で開催された 「大瀬克幸×早瀬マサトトークイベント」での早瀬マサト先生の発言によると、この魔法大戦原稿が少年マガジン版・幻魔大戦 連載第1回の原作だったが、石森章太郎がこれをほぼ使わずにプリンセス・ルーナとフロイのファースト・コンタクトシーンや野球部のシーンの漫画を描いたとのことである(ほぼ使っていないとはいえ、恋人の戦友アリエータの死を目の前にし悲嘆に暮れるベガを幻魔大王が嘲弄するシーンは、魔法大戦原稿で大魔王サタナス百世に宇宙戦艦メビュウス号を撃沈され生き延びたサイボーグ兵士ベガがサイボーグ艦長リナの死を悲しむシーンを踏襲している)。精神科医の名越康文によると、ベガはほとんど鬱病らしく、380万光年離れた地球に辿り着いた直後はプリンセス・ルーナに戦列に加わることを拒否していた。しかし、プリンセス・ルーナのエスパー探しに付き合ううちに、戦士の宿命を自覚し、エスパー戦団の親父さん的役割を演じるようになっていくキャラである。少年マガジン版では宇宙戦争を20年間戦い抜いたサイボーグ兵士だけあって、ニューヨークでのサメディ戦ではかなり高い機動力を披露する。

少年マガジン版のベガとアリエータ
背景(幻魔大王)を書いたのは石森章太郎のアシスタントをしていた頃の永井豪。少年マガジン版では死別した恋人アリエータはベガの戦友。

話が少し脱線するが、ベガはなぜベガという名前なのか。織姫と彦星の伝説と何か関係あるの?でもVegaって織女星だから、女のほうじゃないのか?私WO8TimeSpace175ZERO2としては、サイボーグ戦士ベガの名前の由来に七夕の伝説は関係ないと推測する。私の仮説(というか只の憶測だが)は、「"オメガ" "メガ"が訛って"ベガ"になった」説である。復刊ドットコムの幻魔大戦《オリジナル完全版》の第2巻P303に石森章太郎が講談社の原稿用紙に走り書きした登場人物の名前を考えているメモがある。

サイボーグ兵士ベガの名前を考える際の石森章太郎の走り書き

少年 ー 丈
少女 ー ルーナ (と書いて、その前に吹き出しでプリンセスと追記)
チビ ー サンボ
サイボーグ ー ・・・と書いて、内田、平井、石森の誰かが、「サイボーグの名前は何にしよう?」。石森章太郎が原稿用紙を右に90度回転して、下の余白に、縦書きのメモ
オメガ(・・・ううん、違う)
メガ(・・・ううん、違う)
メガロボ (・・・いや、ロボじゃない・・・・)
内田、平井、石森の誰かが「メガ」を唇の圧を強めて「ベガ」と言ってみた。
石森章太郎が、"ベガ"と原稿用紙に書く。原稿用紙を左に90度戻して、「よし、サイボーグ(兵士)の名前はベガな!」
サイボーグ ー ベガ

というやり取りが想像できる走り書きだ。初期構想時は、宇宙戦争敗残兵サイボーグの名前は、オメガ(ギリシャ文字の最後の文字で、最終兵器的な意味)かメガ(昭和42年当時はメガは未だ巨大を意味する言葉だったと思う。ギガとか一般でつかわれるようになったのって1990年代な気がする)を考えてみたけど、イマイチさまにならないので、語感がゴツそうな「ベガ」にした ― というのが、私の憶測です。

閑話休題、少年マガジン版幻魔大戦の次に発表された作品は新幻魔大戦だが、それにはサイボーグ兵士ベガは登場しない。しかしながら、復刊ドットコムの幻魔大戦《オリジナル完全版》の第2巻に掲載されている平井和正による企画書を読んだ上で、改めて新幻魔大戦を読み直すと、実は、新幻魔大戦にもベガが登場していたのではないかと思しきシーンがある。こちらは、新幻魔大戦の第二章「ミュータントお時」の1シーンを抜粋である。

奇怪な超古代都市の大神殿。身の丈百メーターに達するような異教の大神像。想像を絶しているにもかかわらず、それらの光景は、奇妙な親しさを持ってお時の心に迫った。

その超巨大な神像は、かつて千波として存在した彼女の記憶に照合しても、いかなる古代の神々にも似ていなかった。古代の異教のミトラ神、バアル神、・・・・・・そんなものではないようだった。古代エジプトの神々ともちがう。もっともっと古い・・・・・・はかりしてないほど古代の神・・・・・・

石森章太郎は、このシーンを次のような絵で描いてしまっていた。

石森章太郎がイメージした古代文明の巨神像

しかし、後発作品の角川文庫版幻魔大戦/真幻魔大戦で大峰山の鬼の岩場に登場するベガらしき彫像や「ハルマゲドンの少女」に登場する地下都市アリエスの巨神レリーフ群にベガが混じっていることから察するに、平井和正としては、このシーンの巨大な神像はベガをイメージしていた可能性がある。

コラム 作品「幻魔大戦」の成り立ち(3)で記した通り、平井和正は1979年の6月に真幻魔大戦を発表した。イラストレーターはウルフガイ・シリーズでお馴染みの生頼範義(生賴範義)画伯。生頼範義がイメージしたサイボーグ戦士ベガとは次のようなもので、これがシンボルとなり、小説の幻魔大戦シリーズは読者を増やすことになる。

徳間書店SFアドベンチャー1979年夏季号 真・幻魔大戦 第1回の扉絵

その第1回連載はビッグ・プロローグという話で、プリンセス・ルーナというキャラクタ名はプリンセス・ルナに改められるなど、幾つかの設定変更が行われた。おそらく、当初、平井和正は少年マガジン版の設定を引き継いで青少年・大人向けにリライトした小説・幻魔大戦を描こうとしていたのだと思う。また、石森章太郎も新幻魔大戦の続編として平井和正がそういうものを書こうとしているという認識だったと推測される。ベガに関しても、次のような設定の変更が行われている。

ベガの役職

漫画小説
ベテランのサイボーグ兵士艦長を超える唯一の階級の将官(全身が超兵器として機能する超戦士。必要とあれば、一個の国家なり、惑星全体を単身で破壊してのけられるほどの超絶的な脅威をその巨体に秘めている)ちなみに、母星の主要国家の戦士階級に生まれ、十代のうちにサイボーグ化された。宇宙戦争 歴戦の勇士。

ベガの宇宙戦争での従事期間

漫画小説
二十年(魔法大戦原稿では二千年)二百年

ベガの死別した恋人

漫画小説
同じ宇宙戦艦に乗っていた戦友アリエータ(魔法大戦原稿では、ベガと同星人で千歳を超す若き美貌の女艦長リナ)ジラ星人(ベガとは異種族)の少女アリエータ。千里眼能力を備え、カウンター・スパイ課に配属されたテレパシスト。

ベガが恋人と死別から地球に到着するまでの期間

漫画小説
敗残直後の時点で、犬のような姿をした異星人・超能力者フロイがテレポートで地球に送り込んだ。おそらく数時間以内か数分以内(魔法大戦原稿ではベガが自力でワープし、落ち伸びている最中に自分で地球を見つけて、自分の意志で地球に落ちた)。敗戦直後に救命ポッドに閉籠り、二千年間眠りにつきながら宇宙を漂っていたが、覚醒させられ、高次元意識フロイにより、地球に送り込まれた。

小説版のベガとアリエータ
小説以降のアリエータは、寿命が30年ほどのジラ星人。

ついでなので、ベガ以外で、少年マガジン版から小説版に移行する際に変更された設定を列挙しておく。

キャラクターの名前

漫画小説
東ミチ子東三千子
プリンセス・ルーナプリンセス・ルナ
サンボソニー・リンクス
レオナード・タイガーレオナード・タイガーマン
矢頭四朗江田四朗
サメディザメディ
ゾンビ―ザンビ
真名児真名鬼

フロイの位置付け

漫画小説
テレパシー・サイコキネシス・テレポート・残留思念と、ありとあらゆる超能力を使いこなすベテランのオールラウンド超能力兵士。セントバーナード犬の姿をしている(魔法大戦原稿では銀狼だった)。高次元意識(平井和正の別作品「エリート」に出てくるアルゴールのような存在)

幻魔大王の出現記録

漫画小説
ベガとフロイが幻魔大王実物の出現を目撃戦線への出現記録無し。幻魔大王麾下の軍勢が大連盟側のいかなる索敵活動にもかかったことが無い。

話を戻すと、上記の説明の通り、ベガは真幻魔大戦になってから、サイボーグ兵士ではなく艦長以上に偉いサイボーグ戦士という位置づけに変更される。但し、真幻魔大戦では、連載第2回以降ベガはしばらく登場しなくなり、角川書店 野性時代で飛び石連載された(角川文庫版)幻魔大戦で1巻~3巻まで少年マガジン版同様に活躍することになる。

4巻以降の角川文庫版幻魔大戦は、新興宗教団体活動記・青春小説になってしまうため、ベガは登場しなくなる(厳密に言うと、10巻でちょっとだけベガらしきものが登場する)。結局、ベガは真幻魔大戦第2部の飛鳥時代パートで記憶と知性を失ったまま役小角(東丈の前世)の従者である鋼鬼として登場し、第2部のラストの鬼の岩場で記憶と知性を取り戻し、東丈として覚醒した役小角と共にどこかへ行ってしまう。角川文庫版幻魔大戦の実質的な完結編である「ハルマゲドンの少女」に名前だけチラッと出てくるだけで、実物は登場しない。

ただ、残念なことに、仮に日本人全員に「サイボーグ戦士ベガはどれですか?」という質問を全数調査で行えば(行わないけど)、上記の石森ベガも生頼ベガも圧倒的多数を得られないと思う。日本で最も有名なサイボーグ戦士ベガのデザインは、角川映画版幻魔大戦の大友克洋版ベガだと思う。

角川映画版 サイボーグ戦士ベガ 1

角川映画版 サイボーグ戦士ベガ 2

角川映画初のアニメ映画ということで、当時テレビやラジオや雑誌媒体/書店の角川文庫の平積みで、バンバン宣伝広告されてただけあって、1983年の春頃にティーンだった人たちでの認知率は抜群なはずである。ただ、理由は宣伝だけではなく、このデザインをしたのが、後に童夢/AKIRAが代表作となる大友克洋。線もデザインも色もいかにも80年代らしく、令和時代にアニメ化しても通用するのではないかというベガのデザインとなっている。

同時期の1982年-1983年に掛けて、徳間書店のSFアドベンチャーや平井和正ワンマンムック 『平井和正の幻魔宇宙』で他の作家により描かれたサイボーグ戦士ベガというものも存在する。

加藤直之版ベガ
幻魔の襲撃を受け、地面に背中を付けつつも、空を仰ぐ加藤直之版サイボーグ戦士ベガ。基本的に生頼版を踏襲しているが、ボディの線がシャープである。このイラスト自体は1981年年末ごろの作品と思われる。

永井豪版ベガ0
徳間書店リュウVol.3のアートギャラリー 永井豪の幻魔大戦

永井豪版ベガ1
徳間書店SFアドベンチャー1982年3月号に掲載された永井豪版サイボーグ戦士ベガ

永井豪版ベガ2
1982年秋の徳間書店SFアドベンチャー増刊 『平井和正の幻魔宇宙』に掲載された永井豪版サイボーグ戦士ベガ

永井豪版ベガ3

鈴宮和由版ベガ
鈴宮和由が幻魔宇宙に寄稿したイラストの中のサイボーグ戦士ベガ

天野喜孝版ベガ
1983年の徳間書店SFアドベンチャー増刊 『平井和正の幻魔宇宙Ⅱ』に掲載された天野喜孝版サイボーグ戦士ベガ

おまけで、幻魔宇宙Ⅱに掲載されたベガの解剖図をご紹介

ベガ解剖図1

ベガ解剖図2

ベガ解剖図3

平井和正は出版社を変えて同じ作品を出し直すのが好きで(これが後の人気低迷に拍車を掛けることになる)、その都度、上記以外のイラストレーターや漫画家のベガが存在する。

山田章博版ベガ
一時期、角川文庫として刊行されていた真幻魔大戦1巻のカバーイラスト 山田章博版サイボーグ戦士ベガ

寺田克也版ベガ
一時期、アスペクト社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦のカバーイラスト 寺田克也版サイボーグ戦士ベガ

勝連版ベガ
一時期、集英社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦のカバーイラスト 勝連版サイボーグ戦士ベガ

まつもと泉版ベガ
まつもと泉版サイボーグ戦士ベガ(一時期、アスペクト社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦の巻末に掲載された)

村枝賢一版ベガ
村枝賢一版サイボーグ戦士ベガ(一時期、アスペクト社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦の巻末に掲載された)

末弥純版ベガ
末弥純版サイボーグ戦士ベガ(一時期、アスペクト社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦の巻末に掲載された)

江川達也版ベガ
江川達也版サイボーグ戦士ベガ(一時期、アスペクト社から出版されていた角川文庫版幻魔大戦の巻末に掲載された)

2014年の幻魔大戦 Rebirthでは、ベガのデザインがリファインされる。基本的に石森版をベースにして、大友版の要素を組み入れている。

早瀬マサト版ベガ

早瀬マサト版ベガ ガレージキット
ワンダーフェスティバル2019冬で販売されていた 「バジルの造形魂+Y」氏によるRebirth版サイボーグ戦士ベガ

2018年1月~2月にかけて上野の森美術館で開催された生賴範義展の目玉として製作された立体展示物 サイボーグ戦士ベガ像

ベガ

ベガ
生頼範義版ベガを寺田克也がリファイン

ベガ
造形は竹谷隆之。ベガ像製作にあたり、ポーズの確認用に竹谷隆之の手によって描かれたアイデアスケッチ

ベガ
上野の森美術館で展示されたベガ像の顔のアップ。瞳孔が赤い!。しかし、1/7スケールのフィギュアの瞳孔は赤く光るようにはなっていなかった(顔全体も10%ほど圧縮された感じになっているらしい)。

幻魔大戦 Rebirthでのベガはいまいち目立っていない気がするが、サイボーグ戦士ベガは幻魔大戦の世界観と謎を解くための鍵を握る重要キャラなのだ。

ちなみに、上記のサイボーグ戦士ベガ像の1/7フィギュアというものが、上野の森美術館「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」、生賴範義公式HP、静岡ホビーショーなどで注文申し込みを受け付けて、限定受注生産された。納品後に喜びの声を上げた顧客のツイートやそれのレビューは下記のリンク先をご覧ください。

平井和正・幻魔大戦 サイボーグ戦士ベガ像 ついに出荷!!

[レビュー] 幻魔大戦 / サイボーグ戦士ベガ 原作イラスト版 / GSIクレオス