石森 うーん、いきさつってのはなんだろう。これは「少年マガジン」の内田勝が、なんかおもしろいSFやろうよといいだして、それじゃ平井和正さんといっしょにやろうかということになって、だからあそこの企画な訳よ。
石森 そう。それで、平井氏となん度か会って、タイトルを「幻魔大戦」と決めて、二人でアイデアをつめていってさ。平井さんが文章にまとめたのを、さらにマンガに飛躍させて、あれができあがったと、まあ、そんなとこだな。
石森 ああ、そうか、そうか。
石森 うん。そういうイメージだったんだよ、最初は。超能力合戦の、魔法世界みたいなのを描きたかったんだ。ところが、だんだんつめていくうちに「幻魔」がいいんじゃないかということになったんだ。
石森 「幻魔」のヒントはなんだったかなあ。
石森 とにかく強いこと、魔法よりも強くて新しいほうがいいだろうということだったんだ。それでたしかできたと思うんだよな。
石森 うん、非常にメルヘンタッチのね。だから「幻魔」とやって、あの作品とは違うものをねらおうということにしたんだ。
石森 いずみ・あすかというのは、もともとオレと赤塚のさ、共作のためのペンネームだったわけだけど、一作か二作かやっただけで、もうつかわなかったと思うんだ。ただ、オレはこの名まえがわりと好きだったんだ。 その後、オレは単独で「ちりぬるを」とかの作品を描いていたんだ。それで「幻魔」のときは、つまりなんというのかな、原作にもかんでいるというのかな、オレの名まえを二つならべるよりは違う名まえのほうがいいだろうということでさ、いずみ・あすかをつかったんだろう。
石森 そのあたりはちょっとややこしいからな
石森 そうだなあ。ズバリひと言といわれてもなあ(笑い)。超能力による新世界を描く、そういうことだな、オレのイマジネーションのなかではね。だから、平井さんは平井さんでまたちょっと違うと思うんだ。そのへんのとらえかたが・・・。だから彼が描いている小説の「新・幻魔大戦」になると、彼がいちばん描きたかったところが全部出ているんじゃないかと思うんだ。 それで、今度オレの新しい「幻魔大戦」も、オレが描きたかった部分が出てくる。だから最初の「幻魔」というのは、おたがいの描きたい部分をえんりょしあいながらできたんだろうという気がするな。
石森 だけど、両方の好みがあったのがこの作品だと考えてもいいしね(笑い)。ものはいいようだよ。
石森 うーん、だから、その存在はオレは絶対否定しないわけだ。必ずあるだろうとは思うんだけど、まだ制御のしかたというかな、使いかたがわからない。洗練されないというか、人間が現在もっているもの、予感とかなにかというのは、まったく無意識のうちにしか働かないわけだ。だからそれが制御されたかたちで、洗練された未来の超能力ということになると、もっといろんなつかいかたがあるんじゃないかと思うんだ。
石森 なんというのかな、そうすることによって、かなり違ってくるだろうという気がするんだ、人間の生活そのものが。相手の心が読みあえるようになって、もう争いもなくなるだろうという気がするんだ。以前にはそういう世界もあったんじゃないかという気がするんだな。 ところが、どうしたはずみかで血なまぐさい殺しあいをしたりするところへ入ってきてしまったんだ。これにはなにか原因があったんだろうと思うんだ。
石森 だから今度の新「幻魔」でも、そのへんのところが描ければと思うんだけど。一回一〇〇枚あるそうだからな。まあ「ミュータント・サブ」なんかとはちょっと違った・・・・・・。
石森 今度のやつはちょっと区別して描こうと思っているけどな。だから、最初の「魔法大戦」なんてアイデアの出たころのたのしいものになると思う。
石森 そうだな
石森 あれは一種のオレのお遊びさ。お遊びではあるけど、地球のエスパーを全部集めて相手しなきゃいかんという、意志表示みたいなものだね。
今度の新「幻魔」は旧「幻魔」のつづきではあるんだけど、もうお月さまはないんだよ。地球にお月さまのない時代の話になるんだ。
石森 さかのぼるんじゃないよ。だけど、それもぼかしてあるんだ。「かつて」といういいかたと「これから」といういいかたと、ふたつしてあるわけなんだ、そのイントロのところで、「神話前夜」というタイトルになるんだけれど、その神話が未来の神話なのか、架空の神話があって、それが現在につながっているのかということも全然わからないようにしてあるんだよ。
石森 「幻魔」でとくにこれといった印象はないけどな。
石森 それは、勝手な解釈だ。(笑い)
石森 平井氏のイメージは入れて描いているかもしれないな。
石森 もう一回読んでみないといけないな。みんな忘れている。
石森 悪魔とは違うだろうな。いや、悪魔じゃないよ。あくまでもインベーダーだよ、これは。
石森 そうだな。そのほうがいいんじゃないか。
石森 だけどそういうテーマみたいなものは、今度の作品でも継続する部分じゃないか。
石森 そういうことだな。まあ、しかし、前の「幻魔」とはまったく離れたところから今度の「幻魔」は見てもらいたいと思うんだ。
石森 そりゃ、おたのしみってところだな。できれば、平井氏が書いている「新・幻魔大戦」とドッキングしていきたいとは思うけどな。
石森 うん、やってるんだ。ただ、まったく水と油みたいにやっているのかもしれないんだ。それとも、あんがい近いところをやってるかもしれないし、それがたのしみなところでもあるわな。
石森 そうか。それはドク・タイガーにかぎらず、オレの作品ではよくあることだよ。べつにおどろくべきことではないよ。
石森 そうか、それじゃイメージのとりちがえかもしれないな。
石森 最初の意識ではな。それが、描き込んでいるうちにだんだん面白くなってきて、顔なんかも変わってきちゃうんだな。
石森 うん、このへんはな。だけど、いまはこんなのやるやついないなあ。めんどうくさがってやらないのかなあ。
石森 まあな。今度も大いに泣かしてやろう、編集を。
石森 読者はわかんないよ。泣かそうと思っても泣かないしさ、泣かせまいと思っても、やっぱり泣いてくれないし。
石森 今度のやつってなに?
石森 これ(「幻魔」)とはまったく離れてるよ。
石森 うん、まったく違う。
石森 だから、この世界のつづきではないということだよ。この世界というか、前の「幻魔大戦」の物語そのものとは。だから、ここで出てきたキャラクターがまた出てくるかと期待してみたら、まったく出てこないという、そういうつくりになっているわけだ。「新・幻魔」がもうすでにそうだろう。
石森 そうだな、だからまったく違った見方をしてもらいたいということと、今度は今度のたのしさを出したいと思うから、またよろしくというところだろうな。
いまはSFブームなんていわれてるけど、現在のほうがもっとひどい状況にあると思っているけどな。それはマニアがふえたってことだけで、けっしてブームじゃないんだな。
石森 全然拡がっていないと思う。
石森 うん、当時としてはな。
石森 そりゃそうだよ。とにかく、SFでおもしろいものを描こうということで、なん回も会って話をしたよ。
石森 それは一貫してもっているし、そのことはオレだけではなくて、ニーチェにしてもドイルにしても、みんな最後は神秘主義におちていっているんだよ。神秘主義というのは知性の衰弱だという説があるけど、知性の衰弱じゃなくて知性がかくしたものを感性がとらえてくるんだろうと思うんだ。その感性というのは、人間がこれから進化するとしたら、知性よりも感性の部分が進化していかないとヤバイんじゃないかって気がするんだよ。 人間がどんどん多くなって、人と人とのあつれきが強くなってくる、そうなると感性がゆたかじゃないと、相手を理解し、許すみたいなよゆうがないと、なかなか成り立って行かないだろうという気がする。知性だけでやっていくと、これだけの人間はいきのびられないなんてときに、よし、あの部分を消しちゃおうなんて冷たくわり切っちゃうわな。理だけでいくとそういうことになって、戦争に発展する可能性もあるしな。で、オレは、人類が生きのびるためにはその部分をのばしていきたい。のびなきゃいけないとおもっているわけ。人間はその芽をもっていると思うわけだ。それが超能力というかたちでかどうかはわからないけれども、そのへんに願望をこめて描いていきたいと思っているんだ。
石森 だから、サイボーグの最終回なんか、オレのテーマのひとつの結論にしたいとおもっている。
石森 まあ、きょうはテーマだけを重点的にしゃべっちゃったけども、超能力はわりと描きやすいっていうのか、マンガにしやすい部分だという気が本当はする。非常にむずかしいけどね、超能力の映像化なんて。でもそれだけにマンガとして見ておもしろい、読んでおもしろいものになると思う。今度はそういうところにもわりと力入れたなっていう気がするんだな。