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■「幻魔大戦」のいきさつ

―まず最初に「幻魔大戦」をはじめられたいきさつからお話いただければと思うのですが―。

石森 うーん、いきさつってのはなんだろう。これは「少年マガジン」の内田勝が、なんかおもしろいSFやろうよといいだして、それじゃ平井和正さんといっしょにやろうかということになって、だからあそこの企画な訳よ。

―雑誌からの企画ですか?

石森 そう。それで、平井氏となん度か会って、タイトルを「幻魔大戦」と決めて、二人でアイデアをつめていってさ。平井さんが文章にまとめたのを、さらにマンガに飛躍させて、あれができあがったと、まあ、そんなとこだな。

―二回ほど二色刷りの予告がついたんですね。それで、そのときは「魔法大戦」ってタイトルでしたね。

石森 ああ、そうか、そうか。

―そのあたりの事情はどういうことだったんですか。

石森 うん。そういうイメージだったんだよ、最初は。超能力合戦の、魔法世界みたいなのを描きたかったんだ。ところが、だんだんつめていくうちに「幻魔」がいいんじゃないかということになったんだ。

―その「幻魔」がいいというヒントになったのは?

石森 「幻魔」のヒントはなんだったかなあ。

―タイトルが変わって「幻魔」となって、そのことばに新しさを感じましたがね。

石森 とにかく強いこと、魔法よりも強くて新しいほうがいいだろうということだったんだ。それでたしかできたと思うんだよな。

―これ以前には手塚先生の「魔法屋敷」という作品がありましたね。

石森 うん、非常にメルヘンタッチのね。だから「幻魔」とやって、あの作品とは違うものをねらおうということにしたんだ。

―それで原作者に「いずみ・あすか」という名まえが出ているんですけど。

石森 いずみ・あすかというのは、もともとオレと赤塚のさ、共作のためのペンネームだったわけだけど、一作か二作かやっただけで、もうつかわなかったと思うんだ。ただ、オレはこの名まえがわりと好きだったんだ。 その後、オレは単独で「ちりぬるを」とかの作品を描いていたんだ。それで「幻魔」のときは、つまりなんというのかな、原作にもかんでいるというのかな、オレの名まえを二つならべるよりは違う名まえのほうがいいだろうということでさ、いずみ・あすかをつかったんだろう。

―それで一回目の予告は原作/平井和正&いずみ・あすかとなっていて、まんが/石森章太郎となっていたわけですね。それで、二回目の予告ではいずみ・あすかがマンガで、石森章太郎は原作となっていましたけど、あれはどういうことなんですか?

石森 そのあたりはちょっとややこしいからな

■テーマをズバリひと言

―「幻魔大戦」のテーマをズバリひと言でいうとどんな感じですか?

石森 そうだなあ。ズバリひと言といわれてもなあ(笑い)。超能力による新世界を描く、そういうことだな、オレのイマジネーションのなかではね。だから、平井さんは平井さんでまたちょっと違うと思うんだ。そのへんのとらえかたが・・・。だから彼が描いている小説の「新・幻魔大戦」になると、彼がいちばん描きたかったところが全部出ているんじゃないかと思うんだ。 それで、今度オレの新しい「幻魔大戦」も、オレが描きたかった部分が出てくる。だから最初の「幻魔」というのは、おたがいの描きたい部分をえんりょしあいながらできたんだろうという気がするな。

―なるほど。ただ、両方の好みがあわない部分というか、まあ、ぶつかりあいはあったんだろうと・・・・・・。

石森 だけど、両方の好みがあったのがこの作品だと考えてもいいしね(笑い)。ものはいいようだよ。

―超能力そのものというか、先生自身の超能力観みたいなことは?

石森 うーん、だから、その存在はオレは絶対否定しないわけだ。必ずあるだろうとは思うんだけど、まだ制御のしかたというかな、使いかたがわからない。洗練されないというか、人間が現在もっているもの、予感とかなにかというのは、まったく無意識のうちにしか働かないわけだ。だからそれが制御されたかたちで、洗練された未来の超能力ということになると、もっといろんなつかいかたがあるんじゃないかと思うんだ。

―まだ未開発の人間の能力のひとつということですね。そのへんが先生の作品の一貫したテーマになっていて、人間の未知なるものへのあこがれみたいなところがあると思うんですけれど。

石森 なんというのかな、そうすることによって、かなり違ってくるだろうという気がするんだ、人間の生活そのものが。相手の心が読みあえるようになって、もう争いもなくなるだろうという気がするんだ。以前にはそういう世界もあったんじゃないかという気がするんだな。 ところが、どうしたはずみかで血なまぐさい殺しあいをしたりするところへ入ってきてしまったんだ。これにはなにか原因があったんだろうと思うんだ。

―超能力というのは先生の作品の重要なテーマでしょう。先生の多くのファンは、そのへんのところに魅かれているんじゃないかと思うんですが。

石森 だから今度の新「幻魔」でも、そのへんのところが描ければと思うんだけど。一回一〇〇枚あるそうだからな。まあ「ミュータント・サブ」なんかとはちょっと違った・・・・・・。

―あのへんとの区別というのはどんなふうに意識しているんですか。

石森 今度のやつはちょっと区別して描こうと思っているけどな。だから、最初の「魔法大戦」なんてアイデアの出たころのたのしいものになると思う。

―というと、魔法合戦に主力をおいたようなかたちで―。

石森 そうだな

―「ミュータント・サブ」が出たのでちょっとおききしたいのですけど、ラストのところで月がドクロになっていて、それを見上げる地球のエスパー軍団のなかに、サブとかエッちゃんとか、みんな出てくるんですけど、あれは?

石森 あれは一種のオレのお遊びさ。お遊びではあるけど、地球のエスパーを全部集めて相手しなきゃいかんという、意志表示みたいなものだね。

 今度の新「幻魔」は旧「幻魔」のつづきではあるんだけど、もうお月さまはないんだよ。地球にお月さまのない時代の話になるんだ。

―すると時代がずっとさかのぼる。

石森 さかのぼるんじゃないよ。だけど、それもぼかしてあるんだ。「かつて」といういいかたと「これから」といういいかたと、ふたつしてあるわけなんだ、そのイントロのところで、「神話前夜」というタイトルになるんだけれど、その神話が未来の神話なのか、架空の神話があって、それが現在につながっているのかということも全然わからないようにしてあるんだよ。

―そのへんはかなり幅広い解釈ができるというわけですね。

■キャラクターについて

―先生はこれまでたくさんのキャラクターをつくってきているわけですけど「幻魔」で印象に残っているキャラクターはありますか?

石森 「幻魔」でとくにこれといった印象はないけどな。

―これは先生の女性観にもつながっていくわけですけれど、二人の重要な女性―ルーナと東ミチ子が出てきますね。これを勝手な解釈でいうと、ミチ子はお姉さんでルーナのほうは奥さんじゃないかと・・・・・・。

石森 それは、勝手な解釈だ。(笑い)

―それと、ルーナのほうは平井先生のキャラクターづくりの影を引いているんじゃないかという気がするんですけど、ミチ子については、先生が自由に描かれたんじゃないですか。

石森 平井氏のイメージは入れて描いているかもしれないな。

―そのへんで先生の理想の女性像がわかるんじゃないかと。

石森 もう一回読んでみないといけないな。みんな忘れている。

―幻魔というのは悪魔とはちょっと違うと思うんですけど。

石森 悪魔とは違うだろうな。いや、悪魔じゃないよ。あくまでもインベーダーだよ、これは。

―たとえばオーバーロードみたいな異星人といった解釈もできるということですか。

石森 そうだな。そのほうがいいんじゃないか。

―なぜ、宇宙を滅ぼしてしまうのか?そのへんがあるんですけど。つまり、すべてを滅ぼしたら、自分もほろびなきゃならないんじゃないか、そういう矛盾を感じるんです。

石森 だけどそういうテーマみたいなものは、今度の作品でも継続する部分じゃないか。

―つまり、お二人とも超存在みたいなものを描きたいのであって・・・・・・。

石森 そういうことだな。まあ、しかし、前の「幻魔」とはまったく離れたところから今度の「幻魔」は見てもらいたいと思うんだ。

―どうなんですか、今度は結末をつけるんですか。

石森 そりゃ、おたのしみってところだな。できれば、平井氏が書いている「新・幻魔大戦」とドッキングしていきたいとは思うけどな。

―江戸時代までいっているとか。

石森 うん、やってるんだ。ただ、まったく水と油みたいにやっているのかもしれないんだ。それとも、あんがい近いところをやってるかもしれないし、それがたのしみなところでもあるわな。

―それから、これはちょっといじわる質問になるんですけど、一回目のときのドク・タイガーの顔と、後半から出てくるドク・タイガーの顔が少しちがうんですよね。

石森 そうか。それはドク・タイガーにかぎらず、オレの作品ではよくあることだよ。べつにおどろくべきことではないよ。

―ただ、一回目のはあまりにも正義ヅラしてるもんで。

石森 そうか、それじゃイメージのとりちがえかもしれないな。

―そうすると、最初の意識ではドク・タイガーはかなりの脇役キャラクターだったんですか。

石森 最初の意識ではな。それが、描き込んでいるうちにだんだん面白くなってきて、顔なんかも変わってきちゃうんだな。

■読者は泣いてくれない

―話は変わりますけど、フロイからの呼び出しあたりでは、先生はだいぶ意識して冒険されたって感じなんですけど、そのあとはわりとドンパチやってますね。

石森 うん、このへんはな。だけど、いまはこんなのやるやついないなあ。めんどうくさがってやらないのかなあ。

―そうですか。むしろ、逆にらくだったんじゃないかと思ったんですけど。編集がたいへんだったんでしょうね。文字の指定までされて。

石森 まあな。今度も大いに泣かしてやろう、編集を。

―え、編集をですか?読者を泣かせるんじゃなくて?

石森 読者はわかんないよ。泣かそうと思っても泣かないしさ、泣かせまいと思っても、やっぱり泣いてくれないし。

■新「幻魔」に乞うご期待

―今度やるのでは新しいキャラクターは登場するんですか。

石森 今度のやつってなに?

―増刊に描くやつですけど。

石森 これ(「幻魔」)とはまったく離れてるよ。

―キャラクターも全部?

石森 うん、まったく違う。

―すると、まったく新たなパラレルワールドができるわけですか。

石森 だから、この世界のつづきではないということだよ。この世界というか、前の「幻魔大戦」の物語そのものとは。だから、ここで出てきたキャラクターがまた出てくるかと期待してみたら、まったく出てこないという、そういうつくりになっているわけだ。「新・幻魔」がもうすでにそうだろう。

―そうですね。とすると、新作「幻魔」に期待せよというところですか。

石森 そうだな、だからまったく違った見方をしてもらいたいということと、今度は今度のたのしさを出したいと思うから、またよろしくというところだろうな。

いまはSFブームなんていわれてるけど、現在のほうがもっとひどい状況にあると思っているけどな。それはマニアがふえたってことだけで、けっしてブームじゃないんだな。

―底辺が拡がっていない・・・。

石森 全然拡がっていないと思う。

―そういう意味では、SFファンに非常な衝撃を与えた作品だと思うんですね。

石森 うん、当時としてはな。

―平井先生と石森先生とで、反攻ののろしを上げたという感じがあるんですけど、そういう意識はやはりありましたか。

石森 そりゃそうだよ。とにかく、SFでおもしろいものを描こうということで、なん回も会って話をしたよ。

■人間は感性で進化する

―対極の立場にサイボーグみたいな作品があるわけですが、そうすると、先生の一番根本のところに、人間を超えるものというようなねらいがあるのではないか、それが一貫してるんじゃないかと思うんです。

石森 それは一貫してもっているし、そのことはオレだけではなくて、ニーチェにしてもドイルにしても、みんな最後は神秘主義におちていっているんだよ。神秘主義というのは知性の衰弱だという説があるけど、知性の衰弱じゃなくて知性がかくしたものを感性がとらえてくるんだろうと思うんだ。その感性というのは、人間がこれから進化するとしたら、知性よりも感性の部分が進化していかないとヤバイんじゃないかって気がするんだよ。 人間がどんどん多くなって、人と人とのあつれきが強くなってくる、そうなると感性がゆたかじゃないと、相手を理解し、許すみたいなよゆうがないと、なかなか成り立って行かないだろうという気がする。知性だけでやっていくと、これだけの人間はいきのびられないなんてときに、よし、あの部分を消しちゃおうなんて冷たくわり切っちゃうわな。理だけでいくとそういうことになって、戦争に発展する可能性もあるしな。で、オレは、人類が生きのびるためにはその部分をのばしていきたい。のびなきゃいけないとおもっているわけ。人間はその芽をもっていると思うわけだ。それが超能力というかたちでかどうかはわからないけれども、そのへんに願望をこめて描いていきたいと思っているんだ。

―そうすると、先生の持論をこれから展開されていくわけですね?

石森 だから、サイボーグの最終回なんか、オレのテーマのひとつの結論にしたいとおもっている。

―そうすると、これが永遠のテーマで、今度の「幻魔」もそこをひとつの輪の一環と。

石森 まあ、きょうはテーマだけを重点的にしゃべっちゃったけども、超能力はわりと描きやすいっていうのか、マンガにしやすい部分だという気が本当はする。非常にむずかしいけどね、超能力の映像化なんて。でもそれだけにマンガとして見ておもしろい、読んでおもしろいものになると思う。今度はそういうところにもわりと力入れたなっていう気がするんだな。